「……あ! こんにちは。昨日は、ありがとう」


「怪我は大丈夫? 夜、痛んだりしなかった?」


家の中から現れた椿ちゃんが、からからと戸を開けて出迎えてくれた。


「うん、大丈夫。歩くのも何とか平気。えっと……相沢くんは?」


「すぐ来るわよ。足が痛むっていうのに、動きまわって大変」


言うこと聞かないんだから、と溜め息混じり椿ちゃんが笑う。
それから、あたしにそっと顔を寄せて言った。


「大丈夫よ。
ご両親は今日は二人揃ってお出かけですって。ひとまずその気合いは抜いていいわ」


「へ? そうなの!?」


お出かけ? いないの?


あたしは気負っていたものがぱっと消えて、ぽかんとしてしまった。


「ええ。夕食も外でとるらしいわ。あ、ハルが来たわよ」


かたんと音がして玄関を見ると、相沢くんがひょこりと顔を出した。


「あれ、何だ。ゆいこ、道場に行ったんじゃなかったのか」


「ユキくんが準備に時間かかっちゃってるの。今日は稽古の日だっていうのに、寝坊するなんて信じられない」


椿ちゃんは、ぷうっと頬をふくらませた。
それからすぐに、にこりと笑う。


「でもまあ、広瀬さんが気になってたし、会えたからよしとするわ。
夕方まで、いるんでしょう? あたしたちと、夕飯食べに行きましょうね」


「うん! って、あの、お邪魔にならない?」


「ならないならない。そんな事言ってたら、ハルなんか毎回邪魔だもの」