あたしは胸元にまわされた腕をぼかぼか殴った。


そんな言葉、今聞きたくなかった。
あたしを宥めるための道具にしてほしくなかった。


「離してよ! もう離して……っ」


「鈴奈っ、こっち向けっ」


腕が解かれて、肩を掴まれる。
力任せに引かれて、振り返ったあたしのすぐ目の前に、相沢くんの顔があった。


「何回も言わないから、聞け。好きな女は、お前一人だけだ。
こんな嘘、ついたりしない」


真剣な眼差し。
声は怒ってるかのように張り詰めていた。


「嘘、だあ。だって……」


「しつこい。もう黙れ」


相沢くんの唇が、涙で濡れたあたしのまぶたに落ちた。

そっと右に、柔らかに左に。

ついばむように涙をとり、その唇は、あたしの唇に落ちた。


「……う、そ。嘘……」


「好きだ、鈴奈」


せっかく拭われた涙が、再び溢れる。

相沢くんの腕があたしの腰に回されて、強く抱き寄せられた。


「もう、二度と言わないからな」


相沢くんの唇が、開きかけたあたしの唇を塞いだ。








瞳を閉じたら、氷がカランと鳴る音が聞こえた。