「あ、紗希ちゃん、いや、その……」


「あたし、鈴奈からあんたと付き合ってるとか、聞いたことないんだけど?
ましてや、言うのもバカらしい関係だなんて、初耳もいいところなんだけど?」


ぎろっと片桐を睨みつけると、片桐はあたしから顔を逸らした。
掴んでいた相沢の胸ぐらも、ばっと離す。

ばっかじゃないの、こいつ。
そんなにすぐおろおろするくらいなら、あんな嘘つくなっつーの。


「おい、こいつを頼んでいいか? 俺は鈴奈を探す」


片桐を厳しい目で見ていた相沢が、あたしに言った。


そうだ。
片桐が知らないってことは、鈴奈は片桐をかたった、他の誰かに呼び出されたってこと。

鈴奈がいないのは、その他の誰かとまだ一緒ってことで……。


「こっちはいいから、早く行って!」


「ああ」


相沢は短く答えて、再び体育倉庫に向かって走り出した。

捻挫したっていうのに、その足取りは全速力のように見えた。


あんなに必死になってるんだもん。
鈴奈、期待してもいいんじゃないの?

あんた、今どうしてるかわかんないけど、心配だけど、きっと相沢が迎えに行ってくれるよ。


あたしは小さくなっていく背中を見送って、それから、目の前の片桐に向き直った。


「あんた……、よくもろくでもない噂を立ててくれたもんだわねえ?」