誰か!

助けてよー!




「あ、忘れてた」


木村くんがふ、と呟くように言った。
裾を掴んでいた手の力が緩む。

「やだやだやだや……へ?」


「マカロンの胸元に飾るオーロラオーブのブローチ、忘れてた。あれはレアもので高いやつだから、ドレスとは別に、ロッカーに入れてたんだ」


木村くんは悔しそうに続ける。


「あれがないとマカロンのドレスは完全じゃないんだ。ああ、僕とした事が、うっかりしていたな」


あたしに張り付くようにしていた体が離れた。
木村くんは逡巡するようにあたしの顔を見下ろした。


「仕方ない、か。鈴奈ちゃん、ちょっと待っていてくれる?」


「へ? 待つって……、きゃっ! 痛いっ!?」


木村くんはどんっとあたしを突き倒した。
コンクリート塗りの床にしこたまお尻を打ちつけて、痛みに顔をしかめる。


「ちょっとだけだからね。我慢してね」


「な、なに……」


木村くんはあたしに手を伸ばしてきたかと思うと、両手首を掴んだ。
振りほどく間もなく、かしゃんと乾いた音。



ててててて手錠!?