体育倉庫の前に、片桐くんの姿はなかった。


「あれ?」


見渡しても、人影はなくて。

もしかして、片桐くんもあたしを探してたりしてるのかな?


「困ったな。ここにいた方がいいかな」


と呟いていると、くう、とお腹が鳴った。


もうすぐ、昼休みの時間だよね。
昼休みが終わってからじゃ、ダメだったのかなぁ。
急ぐような備品、あったっけ。



もう。
来年は実行委員なんて絶対やらないんだから。
こんな忙しい仕事、お断りだ。


それにしても、片桐くんの姿は現れない。


「まさか体育倉庫の中じゃないよね?」


体育倉庫の窓は去年の台風以来壊れていて、木の板を打ちつけているので中は真っ暗。
唯一の灯りが入る扉は閉まっているし。


「ま、いいや。とりあえず覗いてから帰るか」


よいしょ、と建て付けの悪い扉を開けて、中を覗こうと……



「あれ? 鈴奈ちゃん何してるの」


背中に声がかかった。


「あ。木村くん」


振り返ってみると、にこにこ笑っている木村くんがいた。


「もしかして、片桐を探してる?」


「あ、うん。そうだけど……」


「片桐ね、旧体育倉庫に行ったよ。テニスボールの在庫がどうとか言ってたけど」


「旧体育倉庫?」


あたしは、体育館の裏にあるボロボロの旧体育倉庫を思い浮かべた。

あそこはまだ用具が入ってたんだっけ?


椿ちゃんってば、「旧」体育倉庫を聞き間違えたのかなー。

うっかりした性格の椿ちゃんなら、十分ありえる話かあ。