湿布薬の箱を抱えて、保健室を出ようとしてドアを開けると、片桐くんに会った。

片桐くんは女子テニスの担当で、テニスコートは保健のテントから離れた位置にあるから、
今日はほとんど顔を合わせていなかったんだ。


「片桐くん、保健室に用事? 今誰もいないよ」


保健室は、迅速に対応できるようにと、わざわざテントをグラウンドに設置しているのだ(毎年、野球とサッカーが怪我人続出らしい)。

そのテントから離れた位置にあるテニスコートには、保健委員が待機している筈だけど。


「や、実行委員の本部に行った帰り。そこの裏庭を横切るのがコートへの近道」


片桐くんは、裏庭の向こうに位置するテニスコート辺りを指して言った。



「そっか。今日は天気がいいから、コートは暑いでしょ。日に焼けちゃうね」


「おう。もう腕がひりひりしてる」


片桐くんはジャージの袖を捲りあげた腕を出して笑った。
腕はほんのりと赤くなっていた。


「鈴奈は日陰にいろよー?せっかくの美肌がボロボロになるぜ」


「大丈夫。UVケアはばっちりだから」