「美沙」

俺は、美沙を引き寄せようとした。

すると、必死な俺と裏腹に、キョトンとしている美沙。


「どうした?」

「今日の孝司、いつもと違う」


そりゃ、そうさ。

今日から俺たちは新たなステージに進むんだ。


そのために、今日までいろいろ準備してきたんだからな。


「そんなことないよ」


鼻息を抑えながら、ここでも紳士な笑顔を見せる。


「そうかな?」

美沙は訝しげに俺を見て、俺が、そうだよと答えると、今度は安堵の表情を浮かべた。


「孝司、でも、本当にこんな高価な物を私が貰っていいのかしら?」


だーかーら!

俺の彼女なんだからいいんだって!!

素直に受け取れよ。


ってか、早くキスさせろ!!

と、思いつつ、余裕の笑みを頑張って作る俺。


「でも……」


あぁ~もう、ごちゃごちゃウルサい!!

こうなりゃ、勢いで口を塞いでやる~



俺の意気込みが伝わったのか、一瞬だけ目を伏せた美沙は

「ありがとうね」

と、澄んだ瞳で俺を見つめて言った。


「どういたしまして」

ようやく納得したか。


では…そろそろ……


「仕事も、いつも私の分を手伝ってくれて、残業までさせちゃってごめんね」

「俺は当然のことをしているだけだよ」


美沙から悪い虫たちを排除する為…全ては俺たちの未来の為だから。

気にすることなかれ~


「本当に孝司には、いろいろ感謝してる」


もう、いいって。

美沙が俺に感謝していることは

よ~く、わかったから。


だからね、そろそろ

そのお口を閉じてくれない?

ついでに目も。



「いつも、よくしてくれてありがとう。彼女でもないのに……」



えっ!?


…今…なんて……?


『彼女でもない』って聞こえたけど?

空耳か?


でも

『彼女でもない』


この言葉が、耳の奥でこだまする。


美沙は、俺の彼女じゃないのか…

そうか、美沙はおれの彼女じゃない。



えっ……

えっ?

えっーーー!?


ついに俺の思考回路は停止。