僕には三組の祖父母がいる

父方と母方と それから朋代さんの両親で葉月の祖父母


小さい頃両親が離婚したため 母方の祖父は僕に厳しく接した

父の代わりを務めようとしたのかもしれない

この祖父から規律を守ることを学んだ


父方の祖父からは自由の意味を教えてもらった

中学2年の夏休みのほとんどを 祖父母のいるタイですごした

そこで得たものは 僕の進む道に大きく影響した


桐原の祖父母は 血の繋がりはなかったが 葉月とおなじように僕を

可愛がってくれた

桐原の祖父からは優しさと厳しさを学んだ


高校に入った春休みを 朋代さんの実家で過ごしたことがあった

母の二度目の離婚でゴタゴタしているときだった



「大輝たちもいるから一緒に行ってみない?」



親の離婚で傷つく子供を哀れむ言い方ではなかった

何気ない朋代さんの言葉に 何度か会った事のある大輝たちと過ごす

春休みもいいかと承知した

年下の義理の従兄弟たちに慕われるのも悪くない気分だった

そのとき 桐原の祖父は 他の従兄弟たちと同じように僕に接してくれた

古いものに興味を示すと 賢吾だけに見せてやると こっそり書斎に

呼ばれたりもした


血の繋がりはないのに 父とこの祖父とは どこか似ていた

そう父に告げると とても嬉しそうな顔をしたのを覚えている





「お兄ちゃんが付き合ってる人に会ったのよ」



葉月の突然の報告に 父も朋代さんも大げさではなく驚いた



「葉月 余計なことを!」



隣りに座っている葉月の口を手でふさぐと 必死になって僕の手を

はずそうともがく

その様子が可笑しいと 朋代さんが珍しく声をあげて笑っている



「賢吾 そうなのか? 学生らしい付き合いをしてくれよ」



父の言いたいことはわかる

わかるが 父らしくない言い方に可笑しさが込み上げてきた



「美人っていうより 可愛い人だったよ でも あまりしゃべらないの 

黙って人の話を聞いてるタイプなのかなぁ」



自分の妹ながら あの短い時間で 彼女をよく見ていたものだと感心した

実咲は確かにそうだ 無口ではないが自分から前に出ることはなく 

友達とも話をするより聞くほうが多い 

彼女が聞き上手であることは間違いなかった