電車を降り 懐かしい路地に踏み込むと そこの風景は以前のままで 

つい最近も訪ねたような錯覚にとらわれた 

父の家族が住む家は かつて遠野の祖父母が住んでいたもので 

5年前祖母が亡くなり父が家を貰い受けた

古い家ではあったが 随所を上手い具合に手直しをし とても住み良い家に

なっている

僕らを出迎えてくれたのは朋代さんだった

玄関前に立つその姿の変わらぬ若さに驚きながら ただいまと自然に声が出た



「お帰りなさい 二人とも元気そうね 帰国したばかりで忙しいのに 

今日はごめんなさいね」


「そんなことないよ 帰国の挨拶もしたかったから」



実咲と手を取り久しぶりの再会を喜んでいる

僕を本当の息子のように こうして迎えてくれる朋代さんには 

いつも感謝している

朋代さんの中に 無理にそうしている部分があるとは思えないが 

どこかしら努力して僕との関係を築いてきたはずだ



「親父の様子はどうなの」


「それが また葉月とやりあって書斎にこもってるの 

あの子は飛び出して行ってそのまま……」



微笑んで迎えてくれていた顔が一瞬にして曇った

葉月と同様に いや それ以上に 二人の間に入って苦しい立場なのだろう

帰国準備をしている僕の元に 葉月からメールが届いたのは先月のことだ

これまでも たびたび近況を知らせるメールが届いていたので 

今回もそんなところだろうと思い読み進めると 仰天するような内容が

書かれていて 外にいた実咲を大声で呼んだほどだ

葉月は去年大学を卒業 父と同じ省庁に入省した

仕事はそれなりに大変だけど 先輩達に恵まれて気持ちよく仕事をしているとか

両親の様子もマメに知らせてくれていた

それが 父との関係が上手くいかない 話をする機会も減っていると 

2ヶ月ほど前から気になる文面がくるようになって 僕も実咲も何事か

あったのかと心配してるところだった


”付き合っている人がいるの 結婚するつもり 

でも お父さんが反対してる……

先に子どもができたのが気に入らないみたいで……”


青天の霹靂とは こんなことを言うのだろう

葉月に子ども? 

僕でさえ あまりに唐突な事態に状況を上手く飲み込めずにいた

その点実咲は落ち着いたもので すぐに葉月に電話をして詳しい事情を聞きだし

相談相手になっているようだった

いよいよ父との関係が悪くなり 僕に間に入って助けて欲しいと

懇願するようなメールに 僕らは今日こうして父の家を訪ねたのだった