リビングに戻り 葉月の思いを父たちに話すと 思いがけないことだったらしく 

父と朋代さんは顔を見合わせていた

家庭教師になるという僕らの申し出に ありがたいけれど本当にいいの? 

二人とも勉強が忙しいのに申し訳ないわと 朋代さんは心配していたが 

父の一言で本決まりになった



「二人にはアルバイト料を払うことにしよう 

その方が互いの気持ちもスッキリするだろう」


「えっ 俺はいいよ 親子でアルバイトって変だよ 

妹に勉強を教えてお金をもらうってのもおかしいよ」



僕はバイト料はいらないと言い張った

妹の勉強を見てやってお金をもらうのに抵抗があった

兄妹なら金銭のやり取りなしに面倒をみるものだと思っていたからだ

僕の剣幕に おまえも頑固だなぁ と父は呆れていたが 最後は僕の言うことを

認めてくれた





僕と実咲の家庭教師が始まった

なんとなく足が遠のいていた家だったが 葉月を教えるという名目のお陰で 

日をおかず通うことになった

父と朋代さんに対し僕が抱えていた消化できない澱は 度々顔を合わすことで 

いつの間にか消えていた



葉月は国語の長文が苦手だったが 文章の読み方 問題の捉え方などを

教えることで 徐々に理解度が増してきたとは実咲の言葉だった

さすがに家庭教師の経験が物をいうようだ 苦手科目の要点の絞り方が上手く 

噛み砕いて教えるので 葉月もわかりやすいと言っていた

ところが 僕との時間はそう上手くはいかず 今日もなかばケンカ腰で

勉強が始まっていた



「こんな問題を間違えてどうするんだ 

計算問題を落としたら点数に響くんだぞ」


「わかってるよ 何度も言わないで!」


「わかってないから言うんだ 教えてもらってて文句を言うな」


「お兄ちゃんって怒ってばっかり なんでもっと優しく言えないの?」


「優しく教えてわかるならそうするさ おまえが悪いんじゃないか」



思わず葉月の頭を叩く

すると すかさず言い返してくる



「叩かなくてもいいでしょう 口で言えばいいことじゃない もういい!」


「いいことない もう一回解きなおしだ 時間を計るぞ」



僕らの声はリビング中に響き渡っているので キッチンの朋代さんにも 

あとからやって来た実咲にも筒抜けだった