僕は 父の姓を名乗っている

両親が離婚したとき 小学校に入学したばかりだったため 母は名字を

変えるのをためらったようだ

母はもともと旧姓で仕事をしていたので なんら不都合もなく それ以来

ずっと母とは違う姓のままだった


中学に入学した頃 母が再婚したが 三年足らずで離婚した

母より二つばかり年下の編集者で 同じように離婚経験者同士 

惹かれあうものがあったのだろうか

僕の知るところでは 結構長く付き合って結婚したのに 一緒に住むと

何かが違うらしい


二度目の父は僕にとっては歳の離れた兄貴のようで 彼を父と呼ぶことはなく 

ずっと名前で呼んでいた

はじめの一年ほどは上手くいっていたと思う 

二人とも忙しい仕事を調整して 僕を含めて三人で外で食事をすることが

多かった

僕は二人で行けばいいよと言うのだが 早く家族らしくなりたいのか 

親達は僕が一緒でなければと拘った

親と一緒に外食をするのを喜ぶ歳でもなかったが 仕方なく彼らに付き合い 

家族の一員を演じてきたものだ 


何が原因だったのかわからないが 彼と母との関係が微妙にずれ始めて

いくのを 僕は冷めた目で見ていた

二人とも僕には変わらず接してくれたが 夫婦の気まずさが修復することはなく 

これと言った荒波は立たなかったものの 母の二度目の結婚生活は三年ほどで

終止符を打った


母に言わせると ”私は結婚に向いてないのかもね” ということだったが 

そんなことを言われても 僕には答えようもなく 母親の二度目の離婚には

無関心を装うことでやり過ごした

ただ 遠野姓のままだったのは 僕にとっては都合が良かったと

母は思っているようだった




「お兄ちゃんの彼女って さっきの人?」


「うん……よくわかったね」


「わかるわよ だって親しそうに話をしてたじゃない」


「もしかして 勘違いしてないか 白いシャツの方だけど」


「えーっ! そうなの? てっきり赤い服の人かと思ってた 

あーっ もっとじっくり観察しとくんだった」


「はは……観察か 動物みたいだな」



葉月の素直な感想に苦笑いしながら

この歳の女の子は もう女の顔をするのだと驚いた


”ふぅん そうなんだ” と 自分のカンが外れたことが悔しかったのか 

ソフトドリンクの氷を乱暴につついている

葉月が実咲をどう思ったのか気になったが あえて聞かずにいた