実咲の言ったとおりだった

先月オープンしたばかりのファッションビル

いくつものテナントが入り 実咲に教えてもらった店に連れて行くと 

葉月は目を輝かせて見入っていた

服を手にとってみたり バッグを抱えて鏡の前に立ってみたり楽しそうに

している

だが 葉月がそれらを欲しがることはなく 何か買ってやろうかと言うと



「いい お母さんと一緒に選ぶから」



意外なほどあっさりした答えだった 

服に興味がないわけではなさそうだったが とりたてて欲しがる様子を見せない 

そういえば 葉月が着ている服は 店頭にあるような個性的なものではなく 

いたって普通のものだ

それでも 手足の長い葉月には良く似合っていると思う


付き合っている彼女の服が似合っているか そうでないか 

今まで気にしたこともなかったのに 葉月の服が似合っているなどと 

そんなことを考える僕は身びいきなんだろうなと ひとり可笑しくなってきた



「美味しそう お昼 ここがいいな」



買い物もしなかったので 早めにレストラン街に足を運ぶと 葉月は服より

食べる方に熱心のようで 両脇に並んだ店の間を二往復ほどすると 

一軒のフレンチレストランの前に立ち止まった

葉月が選んだのはバイキングランチで いかにも女の子が好きそうな料理が 

サンプルとして店頭に並べられていた



「遠野君」



声の先にいたのは 実咲ともう一人 同じサークルの菅野だった

僕が今日ここにいるとわかっていて来たのか そうでないのか 

それはわからないが 実咲がちょっとだけ肩をすくめる仕草をした

菅野は珍しいものでも見るように 葉月と僕を見比べている



「珍しいところで会うわね 妹さん? こんにちは」



気安く声をかけてきたのは菅野の方だった

葉月が 「はい」 と 軽く頭を下げると 「何年生?」 などと

彼女らに聞かれ素直に答えるのを 僕は少し面映い思いで眺めていた

一緒に食事をしようよと誘われるのではないかと心配したが 

二言三言 サークルの話をしただけで彼女らとは別れた