今夜は通夜で明日が本葬だというのに 弔問客が後を絶たなかった

現役を離れ10年以上経っているはずだが 祖父の職場の同僚や後輩 

仕事で世話になったという人が

次から次へと姿を見せ 祖母や高志おじさんと話しこんでいく


知り合いの少ない僕は居場所がなく かといって通夜の席を離れるわけにも

いかず 眠そうな葉月と一緒に椅子に腰掛けて 訪れる客をなんとなく

眺めていた

見ていると 父に声をかけていく人が多いことに気がついた

こちらには転勤で2年ほどいたと聞いていたが その頃の同僚だろうか 

朋代さんとともに頭を下げ 親しげに話をする様子から 父にとっても 

ここは大事な所だったことがうかがえた

年配の男性と長い間立ち話をしていた父が 僕の方を見て手招きをしたので

葉月を促してそばへと行った



「息子です この春で大学4年です 娘は6年生になります」



二人揃って頭を下げると その人は僕の顔を懐かしそうに見た



「あのときの坊やですか……立派になられて……

桐原さんがいつも気にかけておられました」



牧野さんとおっしゃって お父さん達がお世話になった人だと 

父から紹介されたのだが 挨拶をした僕へ 牧野さんが祖父と同じ眼差しで

見たのが印象的だった 





翌日 高志おじさんや父たちは忙しそうで 和音おばさんから 早く葬祭場に

行っても子供達の居場所がないから みんなを連れて あとで来てもらえないか


と 僕は引率役を頼まれた

祖父の死というのは 悲しい出来事には違いないのだが 孫にとっては

親達ほどの感慨はないようだ

勇輝などは 葬儀が始まる前にすでに飽きて ふざけては和音おばさんに

怒られていた 


葬儀の直前 思いがけない人に声をかけられた

父の古い友人で 小さい頃から良く知っている人だったが こんなところで

会えるとは驚きだった



「仲村のおじさん わざわざ来てくださったんですか」


「賢吾君も来たのか 実はこっちに転勤になったんだ 

といっても隣の県だがね ちょうど家を探しに来ていて 

昨夜知らせをもらってね」


「そうだったんですか びっくりしました」



退院されたと聞いていたのに 急なことで驚いたと言葉を掛けてくれた

両親が別れる前 互いの家族を連れて 遊びに行ったり来たりした記憶があった

仲村さんは僕に声を掛けた後 父の方に歩み寄り 朋代さんも交え長いこと

話をしていた

父の再婚後も 変わらぬ付き合いがあったようで 葬式に駆けつけたのも頷けた