一時間ほど待っただろうか 暗い顔の父が帰ってきて 祖父の容態の重さを

改めて感じた

食事をしながら話される内容は予想以上のもので ときどき意識もなくなる

こともあり 危篤といってもいいくらいの状態だという



「明日仕事の調整をして 明後日 様子を見に行ってくる」


「わかった……僕も明後日は東京に帰るから」


「うん おまえも無理するな」



もともと口数の少ない父なのに この夜は一層無口になり 祖父の急変が

堪えているようにも見えた

こんな父を見るのは初めてで 一人にしておけない危うさを感じ 

そばにいた方がいいような気がして 食事先から父をマンションに送っていき 

そのまま僕も泊まった





その知らせを受けたのは翌朝 冷蔵庫の中をさぐり 二人分の朝食を作っている

ときだった

電話のベルに 父と僕は顔を見合わせた

朝早くの電話は 良くない知らせをもたらすものが多い

父は大きな息をひとつ吐き ゆっくりと受話器を取ると 覚悟を決めた声がした


テレビから朝のニュースが流れる中 重苦しい受け答えが聞こえてくる

僕はコンロの火を消すのさえ忘れていた

父が電話を置き僕を見ると ひとことだけ告げた



「明け方だったそうだ……」

 

フライパンの卵は すでに焼きすぎて ベーコンはカリカリどころか 

炭のように真っ黒に焼け焦げていた