ギブスが取れるまで父の家で世話になっていたが 母との約束でもあった 

再検査でも異常がないことがわかり ひと月ぶりに自分の部屋に戻った

まだ走るのは無理だったが歩行には何の支障もなく 休んでいた間の講義に

追いつくために 受験勉強さながらに必死で勉強した


試験もすみ 心配していた単位の取得もなんとか足りて 4年への進級が

無事に決まった報告を兼ねて 父の家に遊びに行った

大学も休みに入ったので 東京に帰る前に 葉月たちの顔を見ておこうと

思ったのだった

行くことを伝えてあったので 玄関に葉月が迎えに出てきたのだが 

その様子がいつもと違っていた



「桐原のおじいちゃん また入院したんだって」


「えっ?」


「いまお母さんが電話で話してた」



急いで靴を脱ぎ部屋へ行くと 朋代さんはまだ電話中で 父が祖父の入院の

事実を教えてくれた



「体調が悪いのを我慢してたらしい 病院に行ったら即入院だったそうだ」


「手術するの?」



父はそれには答えてくれず 病状がはかばかしくないことが窺えた

電話の相手は高志おじさんらしく 途中で電話を父に代わると 

朋代さんはまず僕に謝った



「賢吾君 ごめんなさいね せっかく来てくれたのに 

私これから実家に帰ることになったの」


「おじいさん どうなの」


「あまり良い状態じゃないみたい……できるだけ早く帰って来いって」


「葉月はどうするの」


「あと2日で春休みだから 学校を休ませて一緒に連れて帰るわ」



電話を受けた時点で 父はすぐに新幹線の手配をしたらしい

朋代さんは慌しく実家へ帰る準備をし 僕が行って二時間後には 

葉月を連れて駅へ向かうために家を出た

駅まで送って帰ってきたら 一緒に食事に行こうと父に言われて 

僕は一人マンションで父の帰りを待つことになった


夏に会ったときは顔色も良く 自宅療養になったと喜んでいたのに 

徐々に病気が進行していたのだろうか

祖父が大事にしていたカメラを僕に譲ってくれたのは 

もしかして こんな日が来ることがわかっていたからかもしれない 

カメラは保管が難しいが 賢吾なら出来るはずだと言いながら

手渡してくれたのに……

一人でいると いろんなことが思い出され いたたまれない気分になってきた