「ごゆっくりって言われちゃったけど どうする?」


「どうするって 怪我人はおとなしくしてるしかないでしょう」


「お茶でも飲んで話してろってか」


「そうよ お茶いれるね」



立ち上がると 実咲は本当にお茶を持ってきてくれた

朋代さんが用意してくれていたらしく 桜餅をふたつ 皿に載せて持ってきた



「なんかさぁ 急に歳をとったみたいだ 

まっ昼間っから 二人でお茶に和菓子って」


「いいじゃない 朋代さんが ごゆっくり って言ってくれたんだもの 

ゆっくりさせてもらうわ」


「それ 意味が違うと思うけど……」



実咲も朋代さんと呼んでいる

葉月は実咲をお姉ちゃんと呼び 朋代さんは実咲ちゃんと呼びかけ 

女三人 いつの間にか仲良さそうにしていていた


葉月がいるときは 僕と話すより 女同士の会話が多いくらいで 

何を話しているのか知らないが

お兄ちゃんにはナイショなのと 意味ありげな葉月の顔が得意そうに僕を見る

妹と付き合っている彼女が仲良くするのは決して嫌ではなく 

むしろ好ましいとさえ感じた



「朋代さん いつも綺麗にしてて 奥様ってカンジで素敵よね」


「うん……」


「大人の女性の雰囲気……もしかして賢吾の初恋って朋代さん?」


「そんなわけないだろう 親父の奥さんだぜ」



僕にとっては女性というより 朋代さんの中に 妻や母としての理想を

見ていると言った方がよく 静かな父のそばに寄り添い 葉月の母親である姿は

眩しくもあった

母と別れた後 あの寡黙な父が どうやって朋代さんと結婚したのだろうと 

不思議に思うこともあったが 少なくとも僕の母と過ごすよりは 

穏やかに人生を歩んでいるのではないだろうか


父の家に居候して二週間 外出したときなど 同じマンションの人に会い

挨拶を交わすようになったのだが みな 僕が父と朋代さんの息子だと

思っているようで 朋代さんにそう告げると 



「向こうが勝手に思っているんだもの そのままにしておきましょう」



たいして気にしているようでもなかったが 僕は少し申し訳ない思いをしながら

若いお母さんねと言われるのを面白く聞いていた