その日 一人で病室にやってきた実咲は 大きな紙袋を下げていた

サークルの男子から預かったの 中身は私が帰ってから見るように伝言よと 

笑いながら袋を渡してくれた



「だいたい中身は想像つくわね 

裸の綺麗なお姉さんがいっぱい載ってる本でしょう

それ 葉月ちゃんに見つからないようにしてよ」


「はは……そうするよ」



実咲の屈託のない顔に ずっと気になっていたことを聞いた



「あのとき バッグの中に大事なものが入ってるって言ったよな 

そんなに大事な物だったの?」


「あっ うん……私があんなこと叫んだから 賢吾がこんな目に遭ったんだよね

ごめん……」


「そんなんじゃないよ 大事な物ってなんだったのかなって 

気になっただけでさ」


「……あのね……石が入ってたの」


「石?」



自分のバッグの中から 袋に入った石を取り出して見せた



「賢吾にもらった石 覚えてる?」


「それ タイの石だ」


「そうよ 持ってると身を護るって 災いから護ってくれる石だって 

そう言って私にくれたでしょう」


「持っててくれたんだ……」


「賢吾に初めてもらった物だった 私には大事な物……

なのに賢吾を危ない目に遭わせちゃった……」



本当にごめんねと あっという間に涙が溢れた顔が 何度も謝っていた

とうとうベッドに突っ伏して泣き出した実咲の背中を撫でながら 

僕は胸の中が熱くなっていた


それは 遠野の祖父からもらったものだった

『石には不思議な力があるんだ』 と 古い物に詳しい祖父らしい言葉で 

石にまつわる話を聞かせてくれた 


『好きな子に渡すといいぞ その子を護ってくれるはずだ』 


中学生だった僕に 二人っきりの部屋の中なのに こっそり囁くように

言いながら渡してくれた

けれど 石になど興味を持つ子にめぐり合わず 実咲に出会うまで 

机の奥に忘れ去られていたものだった


僕が実咲に持っていて欲しいと思い渡した石だった

高価な物でもない小さな石なのに 彼女がずっと大事に身近に持っていてくれた 
それが嬉しかった



「石が実咲を護ったんだ ケガをしたのが実咲じゃなく俺だったけどね」


「もぉ そんなこと言わないでよ」


「はは……あのさぁ 聞いてもいいかな どうして急に進路を変えたのかな」


「うん 言わなかった私がいけないんだよね」



実咲の突然の変化にうろたえていたときの僕とは違い 怪我をして病室に

寝かされて気持ちも落ち着いてきたのか 気になっていた疑問を聞くのに 

するすると言葉が出てきた

涙を手で拭ったものの まだ鼻の先は真っ赤になったままで 

実咲が話をはじめた