バイクに乗ったひったくり犯に飛び掛り バッグを取り戻したまでは良かったが

逆ギレしたバイクの男は僕に掴みかかり何度も殴ってきた

足元がふら付いた僕を見て逃げようとした男に 両手をかざしバイクの進路を

妨害し 結果バイクにぶつかった

バイクの男は転倒し 通りかかった通行人に取り押さえられ 警察に

突き出されたそうだ

轢かれた僕はその場に倒れ 実咲の呼んだ救急車でここに運び込まれたが

丸一日意識が戻らず みなをずいぶん心配させたらしい



「足の骨折は若いから治りも早いそうだ 

頭を強打したようだが 特に異常は見られないということだった

バイクに飛び掛るヤツがあるか まったく……」



父親らしい言い方で ケガの具合を伝えながら 僕の無謀さに呆れていたが

その声は掠れ 目も潤んでおり 言われた僕もジンときて

うん……と返事をするのが精一杯だった


母親の顔が見えなかったが 仕事で海外に行っていて 今夜遅く帰国する

のだという

僕の顔を見たら 父と同じように いやそれ以上に説教するだろう

なんて無茶をするの とかなんとか 

責め立てるように怒られるんだろうなぁ……

母親との再会の気まずさを想像すると げんなりしてきた




翌日の病室には 空港から駆けつけた母 父の家族 祖父母 

それに 実咲と実咲の両親まで顔をそろえていた

予想通り 母親から 無茶をしたアンタが悪いのよと泣き顔で怒られ 

実咲の両親からは 娘のために事故に遭われたそうで 本当に申し訳ないと 

深々と頭を下げられてしまった


娘のせいで大変な目にあわれたのだから 費用はすべて負担させて欲しいと

言い出した実咲の両親に対し 父が そのようなことはおっしゃらずにと 

冷静に対応している

事故後の警察とのやり取り 病院のこと ほか諸々の手続きは 

すべて父が対処してくれた

僕の父ではあるが 母にとっては元の夫でもある

両親の遠慮がちなやり取りが聞かれ 不思議な光景を見ている気がした

その様子を 少し離れたところから朋代さんと葉月が眺めている


この光景を 実咲の両親はどう見ただろうか

やっぱり……と思っただろう

だけど そんなこと もうどうでもいい

僕のために 実咲が手を握り続けてくれた それで充分だった