電車の時刻ギリギリまで楽しい時間を過ごし 僕らは走るようにして

新幹線に乗った

いつの間に用意したのか 和音おばさんと円華さんから 紙袋いっぱいの

土産を渡され 礼もそこそこに別れ 5年ぶりの懐かしい地をあとにした


気を遣っていないように見えたが 初めての人々の中で疲れたのだろう

実咲は 席に座り僕にもたれると ほどなく寝息を立てて寝入ってしまった

二人になってから さっきのことを実咲に聞かれるのではないかと

心配していただけにホッとした


バッグの中の箱を取り出し 膝の上で広げてみた

帰り際に祖父の寝室に顔を出すと 手招きされたあと この箱を渡された

小さい頃から古い物に興味を示す僕に これまでも祖父からいくつかの

品をもらっていたが 今回渡されたのは 祖父が長年大事にしていた物らしく 

箱書きの日付は昭和となっていた



「本当なら博物館行きの代物らしいぞ 賢吾が持っていたほうがいいだろう」


「こんな大事なもの 僕がもらってもいいの?」


「将来はそっちの方に進むんだろう 賢吾なら大事にしてくれる」



体が弱り 品物の管理が難しくなってきたのだろうか

僕がもらってもいいものか正直なところ迷ったが 賢吾なら大事にして

くれるからと重ねて言われ その場はありがたく受け取った


年代物でもあり また高価な品だろうと思い 高志おじさんに相談すると

もらっておけ ただし大輝達にはナイショにな と付け足しながら 

笑って木箱を僕の手に戻した
 


新幹線の窓から見える海辺は 明るい月に照らされ波もなく静かな佇まいだった

窓の開かない車窓から 潮の匂いがしたような気がして 思わず息を

吸い込んだ


次にこの地に来るのはいつだろうか

そのときは みんなで釣りに行けるよう 要さんに必ず連絡しよう

おじいさんも回復して 今は好きな酒を止められているが一緒に飲めるだろうか

腕に実咲の温かさを感じながら 久しぶりに再会した顔を思い出し 

今回出来なかったことを実現させたいと あれこれ思案した


鼻の奥の潮の記憶がまた蘇り 海の風景が様々なものを思い起こさせるのかも

知れないなどと 僕らしくもない発想がくすぐったくて 県境のトンネルに

入ったのと同時に目を閉じた