四月に入り 家の引越しの日が決まったと父から電話をもらった



「手伝いに行こうか?」


「手伝いは足りてるからいい こっちの職員が手伝ってくれるそうだ

それより 葉月を頼めないか 引越し当日はあの子の居場所がなさそうなんだ」


「そうだろうね いいよ 葉月を連れ出してどこか遊びにいくから」


「助かるよ 夜は一緒に食事に行こう」


「うん わかった 朝迎えに行くよ」




気軽に引き受けたものの 葉月を楽しませる場所を思いつかなかった

動物園を喜ぶ歳でもないだろうし 遊園地か天気が悪ければ映画館 

そんなところぐらいしか浮かばない



「新しく出来たファッションビルなんてどう? 

妹さんくらいの歳なら 少し大人びた場所のほうが喜ぶと思うけど」


「大人びたって5年生になったばかりだし まだ子供だよ」



実咲が呆れた顔をしている



「女の子はね 男の人が考える以上に早熟なんです 

いつまでもクマさんを抱っこして寝てると思ってたら大違いよ」


「だけど ファッションビルなんて 俺が恥ずかしいよ」


「そんなことないわよ あそこに行くとわかるけど 

彼を連れて歩いてる子 結構いるわよ」


「実咲は 俺のこと誘ったことないね」


「私は 買い物は一人でする主義なの 

連れがいたら ゆっくり買い物できないもの」



彼女と付き合いだして一年近くたつが 買い物に付き合わされたことはなかった

今まで 何人かの女の子と付き合ったが 例外なく買い物につき合わされ 

挙句の果てに高い物を買わされることもあった

実咲を気に入っている理由に ベタベタしない あっさりした性格があった

今日も これから講義があるからと まだ甘い余韻の残るベッドを

抜け出して さっさと身支度をしている



「そんなもんかなぁ じゃぁそこに連れて行くか 

実咲 買い物のしやすいショップとか教えてよ」


「えぇ いいわよ あとでメールするから!」



僕としゃべりながら キッチンの洗い物まですませ 足早に部屋を出て行った