「大森君 宿舎でゲームしてたわよ ウソツキ」


「チッ おもしろくねぇの……」



あわよくばと思っていただけに 僕はふてくされた顔をしていたのだろう

実咲が僕の脇腹を小突いて 残念でしたと さも嬉しそうな顔をした



「あの光 全部そうかな どうして左側に集中してるんだろう」



展望台から見下ろした山中に点在するネオンを不思議に思ったのだろう

山間の道筋にあるネオンは ある場所を境に左側に集中しているのだった



「この場所 ちょうど町境らしいよ 

ここから見て右側の町は条例が厳しくて建設できないんだってさ」


「賢吾 変なこと知ってるんだ」


「前に来た時 おじいさんに教えてもらったんだ」


「高校生にそんなこと教えてくれるなんて 面白いおじいさんね」


「そうだな……」



およそ ふざけた話などしないような桐原の祖父なのに 時折くだけた顔が

見える

そのときの顔が 悪戯をする子どものようで 僕と一緒にニンマリと

笑った顔が思い出された



「今日はおじいさんに会えたの?」


「うん 一時帰宅してた 体調が良かったら自宅療養になるって」


「良かったね 帰るまでにもう一度会いに行ったら? 

こんな機会滅多にないじゃない」


「そうしようと思ってたんだ 実咲も一緒に行かないか」


「えっ 行ってもいいの? 行きたい! 楽しいおじいさんに会ってみたい」



実咲のこんなところが好きだ

思ったことを素直に言葉にできるなんて いつも羨ましいと思う



さぁ帰るわよと実咲に促されて 仕方なく宿舎へと歩き出した



「ねぇ さっき言ったことホント?」


「なんだよ」


「……私しか見てないって……」


「そうだよ ウソ言ってどうすんだよ」


「ホント?」


「あぁ……」


「ホントにホント?」


「ホントにホント」


「うん……私も……」



実咲の声に口元が緩んだ

いつもと違う風景を見て いつもと違う空気を吸って 

懐かしい人たちに会って 僕もここでは素直になれるようだ


実咲の肩を引寄せて素早くキスをした

満更でもない顔の実咲が僕を見る

南国特有の蒸し暑い夜なのに 僕らはぴったりと肌を寄せていた

実咲の見上げた顔が もう一度と言っている

立ち止まって彼女の腰に手を回し 今度はゆっくりと唇を合わせていった