でも 本当に憎かったわけじゃない 

可愛いと思いながら 邪魔な存在だと思っただけだ

泣いても笑っても大人たちは 幼い葉月を見る

僕のことをいつも見ていてくれた朋代さんでさえ 葉月が泣けば僕との話の

途中でも 葉月のもとに走っていった


学校で先生に可愛がられる子が疎ましくて 訳もなくその子をいじめる

いじめっ子と同じだった


僕のことも見てよと言えなくて 

言葉にできない自分がもどかしくて 

叩けば泣く葉月が面白くて


父に怒られるだろうと思っていた

朋代さんや伯母さん 僕のやったことを知っている人たちが 

父に言いつけるだろう

いつ怒られるのかとビクビクしながら待っていた

けれど 父は何も言わなかった

変わらず僕を見てくれていた



ソファの前に座り込んで 父の腕の中で眠る葉月の腕をつついた

モソモソと 手がうるさげに動く

鼻や頬をつついたが うぅん……と 不機嫌な声がしただけで まだ寝ている

今度は 昔と同じように 頬を軽くつねってみた

目を閉じた顔が迷惑そうに動いたあと 薄く開かれた目が僕を見た



「あっ お兄ちゃん」



父の懐を抜け出した葉月は すぐさま僕の腕に抱きついた

妹の まるで猫のようにじゃれる無邪気な様子に 先ほどまでいた

昔の自分を遠くの方へと追いやった