あれから乃莉子は、ヨゾラに物凄い勢いで迫り、直ぐに天界に行く事を決心させた。


たかだか人間の小娘と、侮っていたヨゾラは、想定外の乃莉子の迫力に屈して、急かされるように、天界へとやって来た。


ヨゾラも直ぐ様、天界へ行く予定だったのだが、乃莉子に主導権を握られた事が、少々腹立たしかった。


イザヨイと見紛う程の美少年は、しかし、そんな腹の内を見せもせず、シレッとシャボン玉の中に乃莉子を押し込めて、天界へと乗り込んだ。


自分の気持ちを押し殺し、何事もなかったかのように振る舞うのは、ヨゾラの得意とする所だった。


今もヨゾラは、魔界とは違う、光溢れる目映い景色に圧倒され、浮き足だっている素振りなど微塵も見せずに、スタスタと人間のお供を連れて、歩いている。


黒い翼を隠しもせずに。


万が一、天使に見つかっても、揺るぎない大義名分が、ヨゾラにはあるのだ。


逃げも隠れもしなくていい、悪魔が天界へとやって来るだけの、きちんとした理由が。


「もし乃莉子が先に、お目当ての王子に会えたとしとも、イザヨイが魔界に帰るように説得するの、手伝ってよ。」


「勿論よ。
ヨゾラくんには、天界まで連れて来てもらった恩があるもの。」


乃莉子は笑顔で頷いた。