アマネは血の色のような深紅のワインを受け取ると、苦い笑みを浮かべた。


「不思議なものだな。
あんなに欲していた、覇王の座だったのに。
今の満たされた心の前では、覇王への執着など全くない。
それより、イザヨイだ。
あのお転婆娘め!」


言うが早いか、一気にワインを飲み干して、アマネはシラサギにグラスを差し出した。


「もう一杯、くれないか。」


シラサギは呆れたように、それでいて労うような表情で、グラスを受け取る。


「もう少し味わって、ワインをお楽しみ下さい。
急いてはワインの楽しみが、半減致しますよ。」


「・・・飲まずには、いられないのだ。」


「イザヨイ様が気になって?」


「はぁ・・・まったく・・・アイツは・・・。
よりによって、キャスを好きだから、人間にしてくれだなんて。
何を考えているんだ。
いや、むしろ何も考えては、いないか・・・。」


破天荒な片翼の小悪魔の事を考えると、一際大きなため息が出てしまい、今抱えている魔界のどんな案件よりも悩ましくて仕方がない、若き魔王。


「溢れる程に、注いでくれ。」


グラスにおかわりを注ぐシラサギへ、アマネはためらいがちに、お願いした。