「キャス・・・。」


乃莉子は体の半分が無くなってしまったかのような喪失感に襲われて、玄関にペタンと座り込んだ。


「キャス・・・。」


その場で両手で、顔を覆う。


・・・キャスパトレイユが目の前に現れた時、乃莉子は、今のこんな自分の姿を想像すらしていなかった。


意地を張って、キャスパトレイユにつっけんどんな態度すら、していた。


だって、この魅力的な笑顔の虜になっている女性は、天界にたくさんいるのだ。


キャスパトレイユの隣に佇むライラ1人を見ただけでも、彼女の朗らかな美貌に、乃莉子は自信を失った。


『こんな素敵な人を差し置いて、今更私が妃だなんて、あり得ないよ。』


そう、思ってしまったのだ。


そんな思いと、自分以外に女性が居た事への焼きもちから、乃莉子はキャスパトレイユの元から逃げた。


その乃莉子を、天界の王子自らが、わざわざ迎えに来てくれて、本当はとっても嬉しかったのだ。