「はい。聞いてます。」


そんな宮田の様子を伺いながら、乃莉子は神妙な面持ちで話を聞くフリをしていたのだが、キャスパトレイユの事はちっとも話題にのぼる気配がない。


「店長・・・キャスが・・・。」


区切りのいい頃合いを見計らって、乃莉子は遠慮がちに、そっと呟いてみた。


「キャスぅ?なにそれぇ?」


半信半疑だった予想が、今の宮田の言葉で確信に変わり、乃莉子は軽く目を閉じた。


『やっぱりキャス、イザヨイさんと一緒に天界に行ったんだ。
存在も消されてるし。
どうしよう・・・。
私1人じゃ、何も出来ない。
天界に行くには、どうすればいいのよ。
でも、もしかして。』


乃莉子はちょっとだけ、淡い期待を持った。


―――。


思い切って玄関の扉を開けた乃莉子は・・・シュンとした。


この1ヶ月、いつもなら、笑顔で出迎えてくれたミルクティー色の髪の天使が、やっぱり居なかったからだ。


もしかしたら、当たり前のように部屋の中に居るかもしれない。


暗い部屋を見て、乃莉子のそんな淡い期待は、無情にも消えてしまった。