「え!?待ってよ！
イザヨイさん、キャスに何かしたのね？」


「ふふっ･･･お気の毒さま。
そういう事だから。」


イザヨイは、嬉しそうに乃莉子に笑いかける。


「そういう事って、言われても･･･。
ねぇ、キャス正気に戻って！
本当に私が分からないの？」


乃莉子はキャスパトレイユに呼び掛けたのだが、当のキャスパトレイユ本人は、困惑した曖昧な表情を浮かべるだけで、自分でも自分が分からない、といった様子である。


「キャスパトレイユ様は、あたしを好きなの。
そうなったの！」


イザヨイは、余裕さえ感じさせる笑顔を向けて、乃莉子にフンっと鼻息荒く言ってのけた。


「･･･!?そんな･･･。
キャス。何か言ってよ。
この１ヶ月、２人で楽しく暮らしてきたじゃない。」


ここが、しがないこじんまりとした本屋の店内だという事を、すっかり忘れ、お客さん達の前で突然自分達が、軽い小芝居を繰り広げ始めたという自覚は、全くない３人。


『キャスくん二股？』
『引くよね』
『なんか冷めるぅ』


お客さん達の興味本位のひそひそ話にも、気づかないでいる始末である。