けれどノアはそんなミヤコからふいと顔を逸らし、広場の中央へと視線を戻してしまったので、言葉の意味を聞くに聞けなくなってしまった。
ミヤコはため息をつき、踊り子たちの方へ向き直る。
好みのタイプか、とミヤコはなんとなしに考えた。
そういえば自分はあまり好みとか考えたことがなかったなと。
何度か他国の王子だったり権力者だったりと見合いをさせられてきたが、ことごとく失敗に終わっている。だいたいミヤコのせいなのだが、本人は意味が解らず首を捻るばかりである。
ミヤコには恋愛経験がない。そもそも好きだ嫌いだの話に興味がない。
そのため好みも考えたことがなかったし、どういうものが恋だ愛だというのかすらもわからない。
だからミヤコは、いまだ気づいていない。昨日覚えた感覚が、どういう意味を持つのかということに。
「……うわっ」
物思いにふけっていてミヤコは、広場に集まってきた人々に押されて前につんのめった。
体勢を立て直そうとするが、周りに意識を配っていなかったため、突然のことに体が反応できない。
こける、と思って目を瞑る。
しかしすんでのところで、隣から伸びてきた腕がミヤコを掴まえた。
「……ミヤ、」耳元で、ノアが呼んだ。「大丈夫?」
違う、と思った。それは、あたしの名前じゃない。
ミヤコは目を開ける。ハッとして顔を向けると、すぐ傍にノアの顔があった。
途端にミヤコは息を止めた。心臓が一瞬止まったような感覚に陥る。落ち着け、と自分に言い聞かせて、ノアから距離を取った。
「……大丈夫。」右手を上げて答えてみせた。「ありがとう。」
いつも通りに振る舞ってみせると、ノアはどこか不思議そうに首を傾げ、けれど「ん。」とうなずいた。
ミヤコはノアから顔を背けた。目を泳がせることなく、広場の中央を見つめる。“見るためのもの”が今、そこにあってよかったようにミヤコは思った。


