**
「世子様」
「用意が出来たか」
「はい」
「ソウォン、参るぞ」
湯浴みの用意が整い、声がかかる。
昨夜の出来事を思い出し、ソウォンの足が竦んだ。
「世子様、……お一人でお入りになられては?」
「何を申す。せっかく温陽に来たのだから、夫婦水入らずでよいではないか」
「………」
皆が寝静まった頃にこっそり入るならまだしも。
行宮にいる誰もが知っているという状況が、受け入れがたい。
それでも、共寝に関しても食事に際しても。
常に女官や内官が傍にいて、戸越に会話を聞いているのだから、心が落ち着かなくても仕方がない。
世継ぎを授かるために、わざわざ温陽行宮を願い出てくれたのだから、従うしかない。
世の中には、一夜にして身籠る女性もいるというのに。
半年もの月日が経っても未だに懐妊の兆しすらない。
前妃のダヨンとの関係は、表向きは良好だったものの、実際は共寝を一度もしたことがないという。
それらしく振舞って誤魔化していたと聞かされているソウォンは、同じ轍を踏まないようにと、それだけが心配で。
一日も早く、御子が授かれれば……。
**
「良い香りがするな」
チョンアにお願いして、湯の色を乳白色にして貰った。
花弁を浮かべてても、無色だと不要に緊張してしまって。
少しでも直視せずに済む方法を悩みあぐねた結果……。
「お背中、流します」
「ん、……では頼む」
ヘスの玉帯を外し、上衣を剥ぐ。
それをする手が緊張のあまり、震えてしまう。
「寒いのか?」
「っ……いえ、大丈夫です」
肩口に添えた手に、ヘスの手が重ねられた。
「そなたも入れ。温まるぞ」
「……はい」



