ソウォンと尚宮のチョンアは、黄金色の山茱萸の花を手巾に摘み取ったようだ。
「覚えておいでですか?」
「もちろんだ」
山茱萸が咲き誇っていた山奥で、ソウォンから二度目の平手打ちを喰らった想い出。
「お茶と申しましても、山茱萸の実は宮中から持って来ているもので、花はあくまでも香りを楽しむためのものです」
「左様か」
「はい」
きっと、二人の想い出を茶に込めたかったのだろう。
「すぐに用意致します」
「ん」
「チョンア、茶菓子の用意を」
「承知しました」
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二月はまだまだ日が暮れるのが早い。
漢陽からだいぶ南下したとはいえ、夜になれば急激に冷え込む。
「世子様っ、お手を……」
オンドル(床暖房)で温められた室内、火鉢も相まってソウォンの足先も冷えては無さそうだ。
「膝を痛めたのではないか?」
「……何ともありません」
「見せてみよ」
「えっ……」
下衣をたくし上げる。
靴下の上に下着を着ていて、それすらもたくし上げられた。
「赤くなってるではないか」
「お気になさらずに……」
自身の膝が痛むのだから、ソウォンの膝も痛むのは当たり前。
白い肌が赤黒く鬱血していた。
「誰かおらぬか」
部屋の外に待機している女官に声をかけると、すぐさま女官が姿を現す。
「世子様」
「嬪宮の膝の手当てを尚宮に伝えよ」
「承知しました」
医女や医官は随行させてない。
その代わり、医術に長けている尚宮のチョンアがそれらを担当しているからだ。



