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「名古屋って?」
「彩葉のご両親にちゃんとご挨拶したいから」
「………それって」
背後から抱き締める彼の腕の中で体の向きを変える。
彼の顔を見上げて、言葉の真意を探ろうとすると。
「この一年半、乗務優先で悪かったな」
「……それは仕方ないし、分かってるよ」
「一先ず、今日を境に乗務時間は減るようになるから」
「………どういうこと?操縦士辞めるの?」
「まさか。その逆だよ」
「え?」
彼の言ってることがよく分からない。
本部長業務に切り替えるってこと?
「社長にでもなるの?」
「いや」
「ん?どういう意味?」
後継者として、父親の跡を継ぐのかと思いきや、違うらしい。
脳内に?が幾つも飛び交うと。
「今日で機長昇格試験の資格である飛行時間をクリアしたから、近々昇格試験を受けるつもり」
「えっ……」
「辞める前にも副操縦士として飛行時間は結構実績積んでたから、本当はもっと前にクリアになってるんだけど、四年のブランクもあるから、父親と相談してプラス500時間を上乗せした」
「ごっ、500時間って……」
「普通の航空会社なら基本1500時間、大手航空会社だとその倍の3000時間。俺はそれプラス500時間で合計3500時間飛行した実績を積んだってこと」
「……凄いね」
「だから、再来週行われる昇格試験に合格したら、正式にご挨拶に伺わせて欲しい」
「……ん」
「言ってる意味分かるよな?」
「え?」



