「お知り合いの方ですか?」
前を歩くスタッフが声をかけて来た。
「婚約者の彼です」
「え?!」
「みーなの彼氏さんだって!!」
「どこどこ?!どの人~?」
あ、ヤバい。
やってしまった。
階段は声が響くため、周りにいる人に聞かれてしまったようだ。
「一先ず、13階まで!」
「………はい」
「ご一緒にお願いしますっ」
「……はい」
7階にいる私たちは、13階の事務所フロアに向かうことになった。
スタッフに誘導され、後ろから彼もついてくる。
「相変わらず、無鉄砲過ぎるんだよ」
「分かってるわよ……」
***
「すみません……ご迷惑をお掛けして……」
予定時間を繰り上げて終了することになった。
「申し訳ありません」
「いえいえ、こちらこそ御礼を言わねばならないほど、ここ数年で一番の売り上げです」
「ホントですか?」
「繰り上げしてもおつりが出るほどですよ」
良かったぁ……。
社交辞令だとしても、違約金が発生しないだけ有難い。
「初めまして、御影と申します」
「初めまして。……久我と申します」
彼と御影さんが名刺交換しているのを横目で追い、
休日なのに名刺を持ち歩いてることにびっくり。
「検察官さんなんですね」
「半年後に辞める予定ですけどね」
「え?お辞めになるんですか?」
「はい。いずれは親の跡を継がないとならないので」
「そうなんですね。環境が変わると大変だと思いますが、頑張って下さい」
「有難うございます」
辞めるとは言ってたけど、本当なんだ。
あまり実感が湧いてなかったのが、
他の人と話しているのを聞いて初めて実感した。



