本堂でご祈祷して頂き、心清らかな気持ちで鳳光寺を後にした。
帰りは行きよりも足取りは軽い。
だけど心なしか、一颯くんの表情がいつもと違う。
お蕎麦を食べて、お腹でも痛くなったのかしら?
「一颯くん」
「ん?」
「お腹が痛い?」
「え?何で?痛くないよ?」
「ホント?」
「ん」
「さっきからここにしわが寄ってる」
「えっ?」
私はほんの少し背伸びをして、彼の眉間に人差し指を添えた。
すると、彼は苦笑いしながら長い腕で私を抱き締め、
「何でもない。ちょっと、考え事してたから」
「考え事?」
「ん」
「そう言えば、さっきお兄さんからメールが来たって言ってたけど、何だったの?」
「…………………………え?」
「今、凄い間があったよ?」
私の質問が彼を動揺させているらしい。
物凄く困った表情をしている。
普段、絶対見せないような顏だ。
いつもは落ち着いていて、とても穏やかな顔つきで。
しかも笑顔を絶やさず、いつだって優しい眼差しを向けてくれている。
そんな彼が言葉を失い、視線を泳がせ、そして笑顔まで失って。
どう考えても何かありそうだ。



