けれど、ベッドから出て行く事も無く、
彼女はベッドの上に無言で座っているようだ。
暫しの沈黙が続き、
俺は痺れを切らして寝返りを打った。
本当は杏花の顔を見るのも辛い。
彼女の澄んだ瞳が他の誰かに向けられると思うと、
胸の奥が重く痛んで苦しいんだ。
そんな事を悟られないように、
俺は平静を装って彼女を見上げた。
「寝ないのか?」
「だって、一緒に寝たくないんでしょ?」
「別にそうは言ってない」
「だって、下で寝ろって」
「………」
再び静まり返る寝室。
暖房が効いているとは言え、肌寒い。
薄着の杏花が風邪を引いてしまうのではと思い、
「とりあえず、入って……」
「いいの?」
「………ん」
俺は掛け布団を捲って彼女の手を手繰り寄せた。
「………あったかい」
「…………」
杏花は俺に抱きつき、優しい声を漏らす。
さっきまであんなに不安で苛ついていたのに
こうして杏花を抱き締めただけで忘れそうになる。
それくらい、俺は杏花に惚れている。
どうしたらいいんだ………俺は。



