「……か……なめ」
「…………酒臭いから下で寝ろ」
「………ここで寝ちゃダメなの?」
「………ん」
「…………」
俺は馬鹿かもしれない。
いや、馬鹿だな。
こうして、杏花が俺の元に来てくれた事が凄く嬉しいのに
正体不明の奴に嫉妬して、彼女の顔すら見ようとしない。
背後から抱きつく彼女の腕をやんわり解いて
そして、俺は布団を肩まで被るように身体を丸めた。
本当の大馬鹿者だ。
そんな俺の態度に躊躇う杏花。
俺のお腹に回した手が、ゆっくりと取り除かれる。
今すぐギュッと掴みたい衝動をグッと堪え、
魂の抜けた声で必死に呟く。
「……………おやすみ」
背中越しの彼女へ、最大限の歩み寄り。
器の小さい男だと言われてもいい。
こう見えて俺はナイーブなんだ!
なけなしのプライドがズタズタになる前に
もう少し時間が欲しいだけ、ただそれだけ……。
そんな俺を察してか、杏花は上半身を起こしたようだ。
スプリングが僅かに軋み、背中がスーッと寒くなる。
彼女が遠ざかった証拠だ。



