夕方にシャワーを済ませていた俺は、
顔を洗い、歯磨きをして、ベッドへ潜り込んだ。
何か、悪い夢でも見ていたのだろうか?
杏花があんな事を言う筈が無い。
そうだ、俺の聞き間違いだ。
俺は自分自身に何度もそう言い聞かせ、
冷え切ったシーツの上に指先を彷徨わせている。
本来なら彷徨わせなくとも直ぐに辿り着く筈の指先。
こんな風に切ない夜も、
もう少しの辛抱だからと思っていたのに
これからはこれが日常になるのかと思うと
切なさ過ぎて胸が苦しく痛み始める。
どこで間違ってしまったのか。
いつ見失ってしまったのか。
何故、自分に惹きつけておけなかったのか。
後悔という残酷な二文字が脳裏を支配し始めた、その時。
カチャッという、無機質な音が室内に響いた。
もしや、村岡が声を掛けに来たのだろうか?
いや、それなら、ノックをする筈だ。
じゃあ、この音の………主は………?
ギシッとベッドが軋み、僅かに俺の身体が揺れ動く。
そして、届くはずの無い指先に
ほんのり温かいぬくもりが僅かに触れた。
静寂な室内に響く衣擦れの音。
そして、仄かに甘いような香りと
待ち焦がれるほどの優しい吐息が首筋にかかった。



