「『そうだ』と言ったら?」
「えっ?」
黒目がちの大きな瞳に俺を写して。
「だから、そうだと言ったら?」
「………」
ゆのは俺を見据え、俺の着物をギュッと掴んだ。
そんな彼女の耳元にそっと囁く。
「ここじゃ、『家元』として振る舞わないとならないから、とりあえず、車に……な?」
「……はい」
袴姿の正装じゃ、どこに居たって注目の的。
それじゃなくても、ゆのは美人で可愛いし。
俺らが何かの余興の一幕のように、
周りに人々が集まり出した。
そんな事もあって、
俺は会場スタッフに了解を得て、
ゆのと共にフェスタ会場を後にした。
愛車に乗り込んだ俺ら。
何故か、ゆのは黙り込んだまま。
フェスタ会場付近は交通規制がされているものの、
専用パスを掲示して、軽やかに走らせる。
そして、花火会場へと続く車の波に逆らうように
俺は愛車を市街地へ走らせた。



