届け!

あたしの声が出なくなって、時間はそんなに経っていない。




だから、そのときのことは鮮明に思い出せる。
でも、きっと。
時間がどんなに経っても、いつになっても、
この記憶はあたしの中で薄れることはないだろう。








長かった学校の時間は終わり、
家に帰宅したときにはもう
あたしは完璧に疲れ果てていた。




「あ、おかえり、さーちゃん。」




帰宅すると、
そう言ってリビングから顔を覗かせたのは
24歳の泉家の長男、
一琉(いつる)。




父さんも母さんもいないこの家では
会社員として働く一琉が
泉家の大黒柱。




兄妹の中でも一番年上だからか、
もとからの性格っていうのももあるけど、
とにかく落ち着いていて、大人な男である。
妹のあたしが言うのもなんだけど。




そして、




「ぅおおおぅ!やっと帰ってきがったな!
おせーぞサヤカ!
何やってたんだテメェ!
まさか転校初日からいきなり男共に絡まれたとか言うんじゃねぇだろうなぁ!?
どこのどいつだ!言ってみろ!
兄ちゃんがぶっ殺してやる!」




…誰がそんなこと言ったよ。




そう、ものすごい血相で怒鳴っているのは
22歳の泉家の次男、
猛(たける)。




ヤクザである。




って言っても下っ端らしいけど、
でもこの般若のような血相はヤクザそのものというか、ヤクザにしか見えねーよ。