ただひとつ。Side Story

「めでたく祝杯の儀、整いましたあとは祝宴に移らせていただきます。皆様にはごゆっくりとお食事をお楽しみいただきたいと存じます。…どうぞ、歓談の花を咲かせていただきますようお願い申し上げます。」


行儀しい言葉が言い終わるか、終わらないうちに……


「…あれ?」


隣の席のひよりの手元には……


「………。何飲んでるの?」


「…ん~?ソルティードック。」


「…マジ?」


すでにカクテルグラスがあった。


しかも……


「ちょっ…、ひより。ピッチ早くない?」


「ヤバい、おいし~。」


もう三分の二は呑んでいる。




…颯太くん。


呑むのを…、阻止できませんでした。




私は呑気に箸つけを楽しむ颯太くんに…


心の中で、謝った。




「ひより。友人代表スピーチってすぐじゃないの?」


「ん~?大丈夫、大丈夫!あ、すみません。えーと…カシスオレンジいただけますか?」


「…まだ呑むの?」



「うん。勢いが大事!」


「…ひより。なんか心配になってきた。さては…かなり緊張してる?」


「………。」


「…図星かあ…。」


「…酒の力があれば大丈夫!」


「…てか、手紙の内容飛んじゃわない?」


「…も~忘れたよ。」


「ええっ?」


「後は…キモチっしょ!」


「あはは……『気持ち』…。」


…まあ、ひよりなら…大丈夫だろう。


何せ本番に偉く強い。


中体連の壮行式…。


思い出すなぁ…。


…選手代表で選手宣誓を行ったのはひよりだった。


あの時もガチガチに緊張して歩き方までロボットのようだった彼女が見せたのは……


声を張り上げ、ひとつも滞りなく言ってのける堂々とした姿だった。



『宣誓!我々選手一同は、日頃の練習の成果を十二分に発揮し、スポーツマンシップにのっとり、正々、堂々と戦い抜くことを誓います!平成×年、×月×日!○○中学代表、3年·市川ひより!』