ただひとつ。Side Story

「……おい…。しっかりしろ!」



俺は拳を大きく振りかざし……



佐野の頬を目掛けて飛び込もうと一歩踏み出したところで……




「…待て。」



足を何かにとられ、俺は体勢を崩した。



「………青山。」



足元を見ると…


横たわったままの青山が、俺の足を必死に抑えこんでいた。





「…馬鹿なことすんじゃねー。それじゃあアイツとかわんないだろ…。」



痛みがあるのか…



片目だけを見開き、じっと何かを訴えかける。




「…俺は大丈夫だ。」



ニヤッと…


奴は笑う。




「…俺は馬鹿だ。でも、人の痛みくらいは分かるから……お前は黙ってみとけ。」




俺はそれを振り払うと…




「……佐野。」




…一発。



一発だけ……




佐野を殴った。







「…これは…、西藤と…それから、コイツの痛みだ。こんな優しいモンじゃねーんだよ、ホントは。加減してやったんだから有り難く思えっ。…いーか、『ごめん』で済むなら警察なんていらねーんだよ。」




「…………。ぶはっ……!」



「…?」




呆然と立ち尽くす佐野をよそに…



ピロティーに響く、笑い声…。




「……何だよ。」



そんなに…


笑うとこか?




「…それ、最高!…ぶっ…」



「馬鹿にしてんのか~?」



「ははっ…、いやいや、珍しいもんみた。」


「………?」


俺には笑ってるお前の方が『珍しい』ぞ…。



「平和主義者のオマエが『警察』って…。」


「いや、だってそうだろ?こんなの『ごめん』で済まされたらたまんねーよ!」



「……そうだな、そうかも…しれないな。」




青山は笑うのをやめると……


じっと天井を見つめた。