「……文化祭のときも思ったけど」
ぱし、と、自分を押しのけようとする私の手を掴んで、京佑くんは再び接近してきた。
「な、何」
後退しながら、そう訊く。
「……嫌がられるのって、新鮮。余計いじめたくなる」
な、何言ってんだこいつ…!
思考が私には理解不能!
「へ、変態!!」
叫ぶと同時に、タン、と背中が壁に当たって、もう下がれないことに気付いた。
京佑くんはにっこり笑って距離を詰めてくる。
逃げ出そうにも、手首はがっちり掴まれていて、身動きが取れない。
「ちょ、ちょっと!!離れて!!」
「なんで?」
鼻先がぶつかりそうな距離で、囁くようにそう言う。
「な、なんでって、そっちこそなんでこんなこと」
「だから、言ったでしょ」
京佑くんが、私の耳に唇を寄せた。
ぺろ、と耳に軽く舌が触れて、びくりと身体が竦む。
「やっ…!」
「嫌がられると、いじめたくなるんだって」
耳元の甘ったるい声に、心臓がドクンと跳ねた。
…この声、苦手だ……!
どうしても、心が、震えてしまう。
「へ、変態…っ」
どうにかそう毒づいてみたけど、私の声は自分でもわかるくらい、弱々しかった。
「……可愛いね」
「っ」
だから……っ!
その声で、耳元で囁かないで…!
私はなんだか堪えられなくなって強く目を瞑った。
「綺深」
───呼ばれた瞬間。
キュン、と、胸が変な音をたてた。
喉の奥がなんだか苦しい。


