「……大人になるって寂しいね」


舞い散る桜を見ながらあたしが小さく呟いた。


「でも……それだけ世界はどんどん広がっていくんじゃないかな」

「え……?」

「俺達が大人になって……今以上に辛いことがあったとしても……それを乗り越えて成長していくんだよ。
子供の時は自分の想像次第で何にでもなれる分、将来なんてちょっとぼやけてたけど……。
大人はさ……ぼんやりじゃなくて、確かな未来に向かって人生を切り開いていく。
その確かな未来には……結婚や出産って、今の俺達には分からない世界が広がってるんじゃないかな」


今のあたし達には分からない世界……。


「……そうだね。
ある意味、今のあたし達の方が縛られてるかも」

「そう?」

「うん。
今はどこにも羽ばたけないから。
生まれ育ったこの場所で羽が開くときを待たなきゃいけない。
でも、大人だったらどこでも行けるよ。
自分の行きたい場所に」


親からも離れて自立して。

自分だけの人生を作っていく……。


「七海はどっか行きたい場所とかあるの?」

「んー……今はないかな。
お父さんも海里も友達もみんなここにいるし。
……ハル君も隣にいるし」


あたしがそう言うと、ハル君は優しく微笑んだ。


「でも……大人になったら見つかるかも。
あたしの行きたい場所」

「俺達、いつまでもここにいるとは限らないもんな」

「ハル君、東京出るの?」

「例えばね。
就職したら、転勤とかで地方に行かなきゃいけない……とかあるじゃん」


そっか、転勤か……。