チャイムの鳴る音が聞こえてくる。

何時の間にか、五十分のも間ユキコとここで過ごしたらしい。


次の授業は美術だ。

なんだかもう、絵を描く気分になれない。


けれど、ここに授業で女子が来るかもしれないし...

見つかったら、面倒なことになるに決まっている。


空気を口いっぱい吸い込んで吐き出す。

それを三回した後、床に手をついて立ち上がる。


『どこか行くの?』

ユキコが不安そうな瞳でこちらを見つめる。

「あぁ、人が来る前にどこか別の場所に移動する。」

安全な場所のあてなんてないけれど...


ユキコは止めようとしたのか、俺の腕を掴もうとした。

けれど、何も掴めぬまま、その手はユキコを哀しい顔にさせる。


『そんな...また来てくれる?』

こちらまで苦しくなるような小さく震えた声で放たれる言葉。


そんな声で頼まれたら断れないじゃないか....


「分かった。また来るから。」