そんな空気に耐えられなくなったのか、あたしといるのが苦しくなったのか、彼は立ち上がってそのままキッチンの方へといってしまった。


それからすぐにカチャカチャという音が聞こえてきたから、きっと夕飯を作り始めたんだろうなとは思ったけれど、今のあたしにはその場所へいく勇気はなかった。




全く空腹感がなかったはずなのに、キッチンの方からふわりと食欲をそそるような香りが漂ってくると、不思議なもので一気に空腹感が押し寄せてきた。


そして、



「奈留、夕飯ができたんだけど、食べる?」



彼がリビングに顔を出しながらそう聞いてきたときには 、「うん」という返事の代わりに、お腹がぐぅ~と音を鳴らしてしまった。


いくらお腹が空いているからといって……


いくら朝食べたっきり、そのあとは何も口にしていないとはいえ……


彼を目の前にしてこの音は恥ずかしすぎて、頬が一気に熱くなった。


と同時に、目の前からぷっと吹き出す声がして、あたしの頬はますます熱を上げていった。