もう夜9時を回っていた。


教師が生徒に会いに行く時間ではない。




「お邪魔します!」




俺は家庭訪問という形で矢沢の家にお邪魔することにした。



これは最近ずっと考えていたことだった。




俺ができること。


矢沢の大事なお母さんの話を聞くこと。


そして、矢沢のたった一人のお姉ちゃんに挨拶をすること。




仕事が忙しいお父さんに代わって、俺がいつでも

矢沢の家に出入りできる男になろう。




何か問題が起こった時、


すぐに飛んできて、俺が盾になる。




何もできないけど、


俺には問題を解決する力はないけど…




ただ悲しみや苦しみが、俺の存在で少しでも少なくなってくれれば…







「先生!!」



パジャマ姿で階段を下りてきた矢沢は、

俺の姿を見て、嬉しそうに微笑んだ。