初めて

携帯電話の画面に矢沢の名前が光る。




電話がかかってくるってことは

緊急事態。




あのおでこへのキスから5日が経っていた。


とても月の綺麗な夜で

俺はアイスコーヒー片手に月を眺めていた。



「もしもし?」



電波に乗って矢沢の声が俺に届く。


不思議だった。



携帯電話を持ってかなりの年数が経つが、こんな風に思ったことなどなかった。



遠くにいる人と会話ができることがこんなにも

ありがたいことなんだって実感していた。



『声、聞いたら落ち着いたから大丈夫…』なんてさ、言うんだよ。




遠慮してさ、

俺を気遣って…




本当は泣いてんのに、

泣き声を必死で隠そうとする。