「は~い!始め!」



また直の苦手な数学だ。


俺は、生徒の答案用紙に名前が書かれているかチェックしながら、教室の中を歩く。



試験の監督として、自分の担任するクラスに来ていた。



なかなか自分のクラスの監督になるってことも少なくて、

あの日以来だった。



直と別れている時のあのテスト監督・・・



もう季節は冬へと近付いていた。



直は、また一番後ろの席。


あの時と同じなのに、気持ちは全然違う。


あの時と同じように、今も抱きしめることはできないのに、満たされていた。



直とは堂々と会うことはできないけれど、心が繋がっていた。




窓から差し込む午前10時の太陽の光が、ちょうど直の机の上を照らしていた。



俺は、カーテンを閉めた。



直が顔を上げた。



俺を見た。



ニコ・・・




微笑んだ直は、俺をドキドキさせていることも知らず、テスト用紙に視線を戻す。




俺は、また歩き出す。



おい・・・直。

だめだろぉ。



直の頭にそっと手を乗せた。



俺のクラスの矢沢直は、答案用紙の名前の欄に、『先生スキ』と書いていた。


こらぁ、直。