直、ありがとな。
あと10分でチャイムが鳴る。
あと10分で、直と一緒の教室にいられなくなる。
直は一番後ろの席。
付き合ってる頃、直はよく言ってたんだ。
『テストの時、私のクラスに来てよ~!』って。
来たぞ、直。
俺、今・・・お前の教室の中にいるんだぞ。
俺は立ち上がり、もう一度、机の間をうろうろと歩いた。
あと5分。
中田と目が合った。
きっと中田は心配してる。
別れたばかりの俺と直を・・・
俺を恨んでる?
俺をにらむように見た後、ため息をついた。
ゆっくりと歩く。
直、近いな。
今、30センチの距離にいるよ、俺達。
「あと5分だぞ~!」
俺は生徒にそう言った後、
そっと手を伸ばし、直の頭に手を乗せた。
軽く、そっと・・・風のように。
気付いたかぁ?
直は、最後の5分を精一杯使って、ラストの問題を解いていた。