俺は修学旅行の飛行機の中だということを、一瞬忘れていた。
愛する彼女の不安を取り除きたいという一心だった。
直の冷たい手がだんだん温かくなってきたので、俺は少し安心した。
「矢沢・・・髪型かわいい。」
俺はそう言って、直をニヤつかせてから、自分の席に戻る。
「お~い。気分悪いヤツ、いないかーー!!」
俺の大声は、飛行機にいる全員の耳に届く。
遠くの方で手を挙げた男子生徒がいた。
何度か過呼吸で、保健室に行っていた生徒だった。
俺はポケットの中から紙袋と梅干、レモン飴を手渡した。
「先生、僕の為に紙袋用意してくれてたの?」
「ふふ~ん。俺に惚れんなよ!」
周りにいた生徒が笑い、その生徒も顔色が良くなった。
「先生、どこ行ってたの?」
隣に座る女子が、俺のジャージの裾を掴んで、ふくれっ面をしていた。
「俺も、いろいろ忙しいの!!」
俺は、前方の直の頭を確認し、席についた。
飛行機がゆっくりと動き出し、浮かび上がった瞬間だった。
前方から不気味な叫び声が聞こえた。
犯人は・・・俺の彼女。
直は、中田や里田、周りの生徒に爆笑されていた。
直は、笑う中田の肩を叩く。
シートベルトが取れそうなくらいに腰を上げた俺の目に映ったのは、
愛しい直の飛びっきりの笑顔だった。