お父さんとお母さんとコーヒーを飲みながら、
穏やかな時間を過ごしていた。
ピンポーン――
「おかえり、ハニー!!」
俺が出迎えると直は、目を大きく開けて驚いた顔でしばらく固まっていた。
「お~い!どした?俺、誰だかわかる?」
俺は直の頭をぐるんぐるんと回して、顔を覗きこんだ。
「どうして、先生がいるのーー?」
さっきまで、生徒として演技していたせいか、直は少し控えめで
それもまたかわいかった。
「俺の家、今から来ない?皿洗うの手伝ってよ。」
バレたらどうするの、と心配する直に、俺は今日の忘れ物を取りに来たことにしようと言い、腕を引っ張って車に乗せた。
車の中は冷え切っていて、とても寒かった。
寒さで赤くなる直の頬に少し触れ、俺は車を走らせた。
「今日、ごめんな。嫌な想いさせただろ。生徒と恋愛なんてできるわけないって言ったこと、嘘だけどごめんな。」
里田依子が、高校生を恋愛対象に見れるかどうかしつこく聞いてきたから、俺は『高校生なんてガキだし、興味ない』みたいなことを言ってしまった。
それは事実なんだけど・・・
俺は、矢沢直が好きなのであって、高校生に恋愛感情を抱くことはないから。

